暮らしの話

2019.01.15

誰にも使われない土蔵


1年で何人が入ったのだろう。エントワがお店になる前、まだ「くら」と呼ばれていたとき。外からは見えない森の中にあるこの大きな建物は、誰にも使われていませんでした。


父と僕が、年に数回入る程度。唯一入るのは正月。お神酒を供えに行くのです。埃と大量の使われないものを置いておくだけの空間でした。


僕が生まれてから早24年。土蔵が物置として人が頻繁に入る場所だったことはありません。 ある意味、家に置いておけなくなった「不用品置き場」だったのでしょう。


そんな風に何年ここに立ち続けたでしょう。土蔵として建てられてから、わかっているだけでも120年超。そんなにも長い間、普通に考えれば廃墟のように。風にあたり、陽に当たり、雨に当てられ、段々と荒んでいきます。


そして、「壊すか、残すか」。最終宣告を受けることになったのが5年前。 残すのであれば、このままにはできない。何かに変えないと残せない。残す必要がない。そんなっ時代になっていました。


誰にも使われない土蔵の運命は家族に委ねられました。今は亡き祖母が、壊すことには反対だったことを覚えています。


「先祖代々受け継いで」「昔からあって」なんてよく聞くセリフでしたが、私にはわかりました。ただ単に「さみしいんだ」ということが。


最終的に父の一声で、残ることになります。思い切ったことでした。 結果的に、何十年ぶりにおめかしされて、そしてみなさんの前に顔を出すことになります。


店ができたときに「すごいな」と思う反面。少し申し訳なくなった自分がいました。 東から西へ、「土蔵の2階に当たったらホームランな!」。土蔵が観客席気分で、子供用ボールを打っていたのを覚えています。そんな風な使い方しかできなくてごめん。


確かに、土蔵は見ていたのでしょう。元気に走り回る僕たちを。


森がひらけて、綺麗になった土蔵は「新築?」と聞かれることがよくあります。思い切っておめかしし過ぎたでしょうか。本当は、120歳超の土蔵です。


今、エントワは幸せでしょうか。たくさんの人を招き入れ、たくさんの人に安らぎを与え、僕たちの生活の中心になり、これからも生きていくことを。


時代は変わりました。次を生きる自分が長男としてできることは、より良い店に。より多くの人に幸せを感じさせる場所に。ということです。


名前を与えられた土蔵は、今も僕たちを見ているような気がします。何歳まで生きられるかな?

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